梁澄子(ヤンチンジャ)

​咲ききれなかった花

一般社団法人「希望のたね基金」代表理事。通訳・翻訳業。1990年から日本軍「慰安婦」問題に関わる。1993年提訴の在日朝鮮人「慰安婦」被害者宋神道さんの裁判支援をおこない、2007年にドキュメンタリー映画『オレの心は負けてない』製作。現在、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表、戦争と女性の人権博物館日本後援会代表を兼ねる。共著書に『海を渡った朝鮮人海女』(1988年、新宿書房)・『朝鮮人女性が見た慰安婦問題』(1992年、三一書房)・『もっと知りたい慰安婦問題』(1995年、明石書店)・『オレの心は負けてない』(2007年、樹花舎)等。訳書に尹美香著『20年間の水曜日』(2011年、東方出版)。

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訳者後書きから

 翻訳をしながらこれほど切なく胸しめつけられ、また心躍らせた経験は他にはなかった。自らの傷をなかなか吐き出せない姜徳景さんの姿、幼い頃に引き戻されて悲鳴をあげる金順徳さんの姿に心ゆさぶられ、彼女たちが絵という表現手段を獲得して生き生きと輝いて行く姿にぐんぐん惹きつけられていった。

 

 本書の登場人物の中でもとりわけ中心をなす姜徳景さん、金順徳さんは私にとっても忘れられない方たちだ。1992年4月、初めて訪れた韓国で、まだ被害申告をしたばかりで具体的な証言聴取には一度も臨んだことのなかった金順徳さんの話を聴いた。私にとっては、個別にじっくりと「慰安婦」被害者の証言を聴いた最初の経験だった。

 その後、再び訪れた韓国で、まだソウルにあったナヌムの家を訪ね、ちょうど絵を描いていった姜徳景さんから、その絵について説明を聞いたことも貴重な思い出だ。姜徳景さんの思慮深さ、静かな中に凜として揺るがない芯の強さが、初期の運動において他の被害者や支援者たちを牽引する動力だったことは、当時を知る人ならば誰もが認めるだろう。本書を通して彼女たちに再び出会い直せたことは、大きな喜びだった。

 そしてもう1つ、とてもうれしい出会いがあった。本書の著者、イ・ギョンシンさんとの出会いである。美大を卒業したばかりのイ・ギョンシンさんが、圧倒的な存在感を放つナヌムの家のハルモニたちの前で何も言えずに退散する冒頭から、私はこの人に惹かれた。彼女た金学順さんのまなざしを忘れられなかったこと、実際に目の前で自らの非力を思い知らされながらもハルモニたちのもとに行かずにはいられなかったこと、ハルモニたちの心に残る傷が見えてきた時から暗中模索を繰り返したことなど、彼女がとる行動は私に既視感をおぼえさせた。そう。この三〇年、私はイ・ギョンシンさんのような女性を周りにたくさん見てきたのだ。そして、私自身もそうだった。

​(訳者あとがきより抜粋)

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aboutBOOK

1992年、美術学校を卒業したばかりの若かった著者が、日本軍性奴隷被害者の女性たちが暮らす家を訪ねる。壮絶な性暴力を被った高齢の女性たちを前に、たじろぎ言葉を失う著者が、何かできることはないかと考えたのが、ハルモニたちに絵を教えることだった・・・・・・・・