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​石原燃

石原 燃 Ishihara Nen

夢を見る 性をめぐる三つの物語

劇作家。小説家。東京生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。2007年より戯曲を書き始め、書き下ろしの依頼を受けるようになる。2011年の夏に大阪に移住し、演劇ユニット燈座(あかりざ)を立ち上げる。2016年に東京に戻り、現在はフリーで活動している。2010年、日本の植民地時代の台湾を描いた『フォルモサ!』が劇団大阪創立40周年の戯曲賞にて大賞を受賞。2011年には原発事故直後の東京を描いた短編『はっさく』がNYの演劇人が立ち上げたチャリティー企画「震災 SHINSAI:Thester for Japan」で取り上げられ、2012年3月11日に全米で上演された。その他の主な戯曲作品に、義足を盗まれる事件に遭遇した母娘を描いた『人の香り』、NHK番組改編事件を扱った『白い花を隠す』などがある。2020年、自身初の小説『赤い砂を蹴る』が出版され、第163回芥川賞候補となった。

 

石原燃さん顔写真2.jpg

撮影:篠田英美

<作者解説より>

 

 性の問題は、いつもそこにあった。

 小さい頃、家の近所に露出狂の人がいて、自慰を見せられたことがある。その意味がわからなかった私は、その人がトイレに行きたいのだと思って、近所の家に連れて行ってあげようとした。馴染みだったその家の老婆が扉を開けてくれたとき、露出狂はどこかへいなくなっていた。中学では、スカートめくりが流行っていて、私もされたし、人にもした。まだ不良がくるぶし近くまである長いスカートをはいていた時代。めくったスカートを頭の上で結んで、「巾着」にする「遊び」があって、紺色のスカート生地のなかでもがいたのを覚えている。高校に入ると、電車に乗って通学するようになり、痴漢によく遭った。朝、制服のスカートにつけられた精液を、トイレの手洗いで洗ったのは一度や二度じゃない。大学生にもなると、性行為が日常生活のなかに入って来て、楽しんだ反面、痛い目にもたくさん遭ったし、社会人になり、結婚ということになれば、戸籍や家父長制的な価値観に振り回されざるをえなくなる。婚姻届を出すとともに、銀行口座や免許証の名前を変えるのは大変だったけれど、離婚とともに、それを元に戻す作業はもっと大変だった。

 にも関わらず、私は自分の性と向き合いきれないまま長い時間を過ごしてきてしまった。

 ある程度鈍感にならなくては生きて来られなかったということもあるだろう。また、社会のなかに溶け込みたい、孤立したくないという想いが、社会が持つ偏見や、ミソジニーを内面化させた面もあると思う。

 三十代に入り、戯曲を書き始めてからずっと、女性であることを意識していなかったわけではない。歴史上の人物でも女性のことが気になるし、新聞を読んでいて目にとまるのは、母子家庭の母親が娘を殺した事件や、性産業に従事する女性が殺された事件だ。男性劇作家が描く女性像にもやもやしたこともある。それなのに、作品を読んだ人から「女性作家とは思えない」と「褒められる」ことを嬉しく感じるような感覚を、私は持ったままだった。

 『夢を見る』は、そんな私の意識が変わりはじめる転機となった作品だ。(続きは本編で)

戯曲 短編『はるか』初演:2010年 ユニットえりすぐり(渡辺えり主宰)第1回公演「乙女の祈り」にて掲載:「せりふの時代」Vol.56/2010夏号『笑うハチドリ』初演:2010年 ユニットえりすぐり(渡辺えり主宰)第2回公演にて『フォルモサ!』 劇団大阪40周年記念戯曲公募 大賞初演:2011年 劇団大阪 第69回本公演にて短編『はっさく』初演:2011年 Pカンパニー番外公演その2「岸田國士的なるものをめぐって」にて掲載:「テアトロ」2011年10月号※抜粋版が英訳『父を葬る』 第24回テアトロ新人戯曲賞 佳作初演:2012年 マルハンクラブ(半海一晃主宰)番外公演にて掲載:「テアトロ」2011年10月号『人の香り』 第18回劇作家協会新人戯曲賞 最終候補初演:2013年 燈座 旗揚げ公演にて掲載:「優秀新人戯曲集2013」劇作家協会編『沈黙』 第22回OMS戯曲賞 最終候補初演:2014年 Pカンパニー第14回公演シリーズ罪と罰 CASE-1にて掲載:「テアトロ」2014年11月号『夢を見る』 第23回OMS戯曲賞 最終候補初演:2015年 燈座×占部、勝手に巣づくり企画 @SPACE 梟門オープン予定地にて『界境に踊る』初演:2015年 燈座×虚空旅団 協力公演にて『白い花を隠す』 第25回読売演劇大賞優秀演出家賞(演出:小笠原響)初演:2017年 Pカンパニー第19回公演シリーズ罪と罰 CASE-3にて掲載:「テアトロ」2017年5月号『花樟の女』初演:2021年 Pカンパニー第32回公演シリーズ罪と罰 CASE-9にて掲載:「悲劇・喜劇」2021年3月号『蘇る魚たち』初演:2021年 O企画 1st stage『彼女たちの断片』初演:2022年 TEE東京演劇アンサンブル劇団公演にて小説『赤い砂を蹴る』 第163回芥川賞候補初掲載:文學界2020年6月号出版元:文藝春秋『スピルカと墓』月刊・掌編小説初掲載:東京新聞2021年1月31日

​ハヨンガ

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Abstract Background

aboutBOOK

「慰安婦」だった日本人女性ヘルの物語、性被害男性の物語、中絶ピルを巡る物語。石原燃が向き合った「性」の物語。

​石原燃

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